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名古屋高等裁判所 昭和49年(行コ)2号 判決 1975年12月22日

名古屋市瑞穂区柳ヶ枝町一丁目一三番地

控訴人

二村商事 株式会社

右代表者代表取締役

二村一郎

右訴訟代理人弁護士

郷成文

石川康之

竹下重人

名古屋市瑞穂区瑞穂町西藤塚一丁目四番

被控訴人

昭和税務署長

高橋多嘉司

右指定代理人

遠藤きみ

佐野武人

浅井良平

大西昇一郎

藤塚清治

右当事者間の法人税更正処分等取消請求控訴事件につき、当裁判所は、つぎのとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人の昭和四二年七月一日から昭和四三年六月三〇日までの事業年度の法人税につき、同年一二月二三日付でなした所得金額金一、九七一万六、三六二円、法人税額金六三六万二、三〇〇円とする更正処分及び税額金一〇万一、二〇〇円とする過少申告加算税賦課決定処分のうち、所得金額金一、四五八万八、八六二円、法人税額金四五七万一、四〇〇円、過少申告加算税額金一万一、七〇〇円を超える部分を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二、当事者双方の法律上、事実上の主張は、左記のほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する(ただし、原判決七枚目裏一行目「事実および」とあるつぎに「二の1(二)のうち」を、同二行目「受領したこと、」とあるつぎに、「二の2(二)のうち」をそれぞれ加える。同一一枚目裏六行目「三、1」とあるのを「三」と訂正する。)。

控訴代理人は、つぎのとおり述べた。

一、原判決における本件土地の価格及び本件借地権の価格の認定は相当でない。

原判決は、本件裁判上の和解における本件土地建物の売却日とした昭和四二年九月三〇日当時の本件土地の建付地価格を金二、〇八一万九、〇〇〇円、本件借地権の価格を金一、一三四万円と認定した。しかし、右時期において、本件土地の所在する地域での取引では、借地権が独立の財産として評価され、かつその価格の授受が慣習となつていたかどうかは疑わしく、したがつて、被控訴人が借地権相当額を否認の対象としたことは不当である。

また、原判決は、本件土地の所有者である二村善三郎は、本件土地、建物が一括して売却された際、建付地価格から借地権価格を差し引いた金九四七万九、〇〇〇円を本件土地の譲渡の対価として収益すべきであつたのに、実際には金一、六〇〇万円を受け取つているから、その差額金六五二万一、〇〇〇円は控訴人が収受すべきであつた借地権の価格であると認定判断している。しかし、不動産鑑定評価基準によれば、「建付地とは建物等の用に供されている敷地で、建物等及びその敷地が同一の所有者に属し、かつ当該所有者により使用され、その敷地の使用収益を制約する権利の付着していない宅地をいう。」ものとされている(同基準各論第2の一の(一)の2の(2))。しかるところ、本件土地は二村善三郎が所有し、地上建物は控訴人が所有して同訴外人に対し賃料を支払つていたのであり、控訴人の借地権によつて、同訴外人の使用収益性は制約されている状態にあつたのであるから、建付地ではないのに、これを建付地として評価することは誤りである。そして、建付地であるかどうかは、譲渡時以前を基準に決すべく、白龍市場協同組合の買受後には建付地となるからといつて、譲渡前も建付地であるとすることはできない。借地権が設定されている場合の底地価格は、建付地価格から借地権価格を差し引くという方法ではなく、更地価格から借地権価格を差し引くという方法で算定されるべきである。しかして、更地価格が建付地価格よりも高額であることは当然であるから、原判決の論理に従うとしても、本件土地、建物の一括譲渡によつて、同訴外人が収受すべき金額は、原判決認定額より増加すべきこととなるはずである。しかりとすれば、本件土地・建物譲渡代金中、同訴外人が収受すべき金員は、土地の更地価格から借地権価格を控除したものであり、原審鑑定書(乙第一号証)によれば、更地価格金二、四四九万三、〇〇〇円から借地権価格金一、一三四万円を控除した金一、三一五万三、〇〇〇円となり、したがつて、控訴人が取得すべくして放棄したとされるべきは金一、六〇〇万円から右金一、三一五万三、〇〇〇円を控除した金二八四万七、〇〇〇円にすぎないというべきである。

二、原判決は、法人税一三二条一項の適用を誤つたものである。

原判決は、控訴人が二村善三郎に対し金六五二万一、〇〇〇円相当の価格の本件借地権を放棄し、その対価を取得しないことは、経済人たる控訴人として極めて不自然、不合理なものとして、被控訴人のした同法条による否認を是認した。しかしながら、控訴人所有の本件建物(市場として使用)に関しては、その賃借人たる市場の出店者との間に明渡と賃料増額の紛争が生じ、出店者により組織される白龍市場協同組合から本件建物及びその敷地たる本件土地の一括買収の希望が出され一方控訴人としては事務所及び倉庫建築のため早急に敷地を確保する必要があり、土地所有者の二村善三郎としては、本件土地の譲渡代金をもつて、他所に土地を取得し、これを権利金の授受なしに控訴人に賃貸する意向を有していたところから、紛争を早期に解決し、爾後の事業経営の利便を確保するため、控訴人としても本件建物及び借地権を一般市場価格より低額で譲渡したのであるから、かかる事情に照らせば、むしろ経済的合理性を追求した結果であるというべく、右行為を不自然、不合理とした原判決は法人税法一三二条一項の適用を誤つたものである。

また、同族会社のした行為計算を不合理、不自然なものとして法人税法一三二条による否認の対象とするには、その同族会社における特殊事情を無視することは許されない。控訴人は、二村善三郎が白龍市場協同組合との和解で受領する金員で取得する愛知県愛知郡東郷町大字春木字新池三、九二二番の七ほか数筆の土地を控訴人に工場倉庫の敷地として権利金なく賃貸する約定であり、そのため、地代も土地の時価の約八%とすることを前提として、右和解を成立させたのであるから、借地権を放棄しても、右特殊事情に照らせば、合理的であつて、何ら不自然不合理はない。

被控訴代理人は、つぎのとおり述べた。

(一)  本件更正処分において、雑収入(借地権)計上もれとして、控訴人の所得金額に加算した金五一二万七、五〇〇円の算出根拠は、つぎのとおりである。すなわち、本件土地の取引価格は金一、六〇〇万円であり、借地権の割合を五〇%として、借地権価格は本来金八〇〇万円となるところ、本件処分当時の被控訴人担当者の昭和三七年当時の本件土地の借地権価格相当分は控除すべきであるとの理解に基づき、同年当時の本件土地の価格を金五七四万五、〇〇〇円とし、また、借地権価格をその五〇%である金二八七万二、五〇〇円とし、前記金八〇〇万円から右金二八七万二、五〇〇円を控除した金五一二万七、五〇〇円を雑収入計上もれとして加算したものである。

(二)  控訴人は、借地権が設定されている場合の底地価格は、原判決のように、建付地価格から借地権価格を差し引くという方法でなく、更地価格から借地権価格を差し引く方法で算定されるべきであるから、本件土地建物の一括譲渡につき二村善三郎が収受すべき金額を算定するには、更地価格を基礎とすべきであると主張する。しかし、同訴外人、控訴人両名と白龍市場協同組合との和解による取引にあつては、同訴外人所有の土地と控訴人所有の建物とが一括して譲渡され、同協同組合としては右土地を建付地として、すなわち、建物等の用に供されている敷地で、建物等及びその敷地が同一の所有者に属し、かつ当該所有者により使用され、その敷地の使用収益を制約する権利の付着していない宅地の状態で取得することになつたのであるから、その譲渡価格は、建付地として評価決定されて然るべきである。なおまた、本件においては、右土地の底地価格如何が問題なのではなく、二村善三郎が現実に取得した土地売買代金中、控訴人が本来収受すべきであつた借地権価格相当額如何、換言すれば、売却代金中同訴外人と控訴人両名のそれぞれ収受すべき金額は幾らかということが問題とされるべきであるから、本件土地建物の一括譲渡による同訴外人の収受すべき金額の算定の基礎を建付地とした原判決の判断は正当である。

第三、証拠関係

左記のほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一、控訴代理人は、当審において、甲第六号証、第七号証の一、二、第八号証、第九号証の一ないし三を提出し、当審における控訴人代表者二村一郎本人尋問の結果を援用し、乙第六号証の成立は知らない。その余の乙号各証の成立はすべて認める(第二号証の一、二が被控訴人主張どおりの図面であること及び同第二号証の三ないし六がその主張どおりの写真であることは、いずれも認める。)、と述べた。

二、被控訴代理人は、当審において、乙第二号証の一ないし六、第三ないし第六号証(第二号証の一は愛知県愛知郡東郷町大字春木字新池三九二二番の七、二四、一九六、同番の五一、六一、四〇一、同番の四〇二の土地付近の写真撮影土地地番図、第二号証の二は写真撮影場所見取図、第二号証の三ないし六は、いずれも右土地付近の写真である。)を提出し、当審における証人森茂伸の証言を援用し、甲第九号証の三の成立は知らない。その余の甲号各証の成立はすべて認めると述べた。

理由

当裁判所も、原判決と同一の事実を認定した上、控訴人の請求を理由ないものと判断する(当審における新たな証拠によつても、原判決の認定を左右しない。)。その理由は、左記に付加するほかは、原判決がその理由において説示するところと同一であるから、ここにこれを引用する。

控訴人は、裁判上の和解での本件土地建物の売却日である昭和四二年九月三〇日当時本件土地付近の地域で、借地権が独立の財産として評価取引されていた慣行のあることは疑わしいから、被控訴人が借地権相当額を否認の対象としたのは不当であると主張するが、原審証人河合元三の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第一号証によれば、昭和四二年九月当時本件土地付近で、借地権が地上建物とともに譲渡される場合、当該建物の価格に借地権の価格を計上加算される事例が往々にしてあることが認められるから、右主張は理由がない。

控訴人は、原判決は本件土地を建付地と評価したが、これは更地として評価すべきであり、したがつて、二村善三郎が収受すべき金額は多くなり、反面控訴人の取得すべくして放棄したとされるのは少額になると主張する。本件土地が二村善三郎の所有に、また、本件建物が控訴人の所有にそれぞれ属していることは控訴人主張のとおりである。しかしながら、現に地上物件が存する以上、これを更地として評価し得ないことも明らかであり、むしろ、本件の場合本件土地建物の買主たる白龍市場協同組合がそのまま地上建物を自用に供することを前提として取引されたことなどに照らせば、本件土地を建付地として評価することは相当であるといえる。控訴人のこの主張は理由がない。

控訴人は、控訴人が二村善三郎に対し借地権価格を放棄し、その対価を取得しないことは、不自然不合理でないとして、その理由をるる主張し、成立に争いのない甲第九号証の一、二、当審における控訴人代表者本人尋問の結果により成立の認められる同号証の三、原審及び当審における控訴人代表者本人尋問の結果中には、右主張に副う部分があるけれども、それらは愛知県愛知郡東郷町大字春木字新池三、九二二番の七ほか六筆の土地付近の写真撮影土地地番図であることについて争いのない乙第二号証の一、同じく右土地付近の写真であることについて争いのない同第二号証の三ないし六、当審証人森茂伸の証言により真正に成立したと認められる同第六号証、右証人森茂伸の証言、当審における控訴人代表者本人尋問の結果(信用しない供述部分を除く。)と対比して容易に信用しがたく、この主張も採用できない。

してみると、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきであり、これと結論を同じくする原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法三八四条によりこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柏木賢吉 裁判官 夏目仲次 裁判官 菅本宣太郎)

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